どうも、太陽です。(No178)
突然ですが、以下の記事で、電通デジタルは「一人の天才を求めない、集合知で勝ちにいく」と主張していますが、その通りになるのでしょうか?
今回は集合知、つまり多様性を確保することの重要性を「多様性の科学」という本を参考にしながら、まとめていきます。
そして、多様性を確保した集合知が1人の天才に勝つのか、考えてみたいと思います。
興味がある人は続きをお読みください。
1 多様性か、有能な人材集中か?
いきなりですが、不確実性が高い分野では、多様性の確保は重要でしょう。
例。起業(シリコンバレー)、政治の政策、エベレスト登山、飛行機の操縦、外科手術、戦争など。
複雑な課題なので、膨大なデータを集めて読み解くことが必要です。
同時に、無数の可能性を考慮する、つまり多様性を確保して、いろいろな層から意見やアイデアを引き出すのが大事です。
ところで、シリコンバレーは気軽に人が集まり、会話できる文化があり、大いに発展しました。
対して、過去に繁栄し、「マサチューセッツの奇跡」と呼ばれたルート128という地域は閉鎖的で秘密主義でした。
ですので、孤立し、異分野の融合が起きず、衰退しました。
しかし、多様性の確保が大事といっても、集まる人達が重要です。
集めるメンバー選びを間違えると、集合知が発揮できません。
さて、多様性の科学の本のP94には以下のように書かれています。
・ | 経済予測チームなら、正確な予測ができて、かつ異なるモデルを用いるエコノミストを集めること。 |
・ | 情報機関なら、分析能力が高く、さらに自身の経験や背景をもとに普遍的な危機を理解できる分析官が必要。 |
・ | 政策立案なら、政治手腕があるだけでなく、(一例として)自身の選挙区を反映する背景をもつ政治家を集める必要がある。 (これは意味がよく分からない) |
そして、人口統計学的多様性(人種・性別・階級などの違い)と認知的多様性(ものの見方や考え方の違い)では、後者が特に重要なのです。
もちろん、人口統計学的多様性が高ければ、認知的多様性(ひいては集合知)も高まります。
司法業務、保険サービス業務、金融業などの幅広い層の人間を理解することが必須の職場では、人口統計学的多様性(ひいては認知的多様性)が重要です。
ですが、人口統計学的多様性が高くても、認知的多様性にあまり、あるいはまったく影響を及ばさない場合もあります。
それは航空機部品や機械装置などの製造会社です。
例えば、黒人であることと、エンジン部品のデザインを向上させることに関連性はありませんから。
では、経済予測についてはどうなるでしょうか。
2人のエコノミスト(白人の中年男性で同性愛者と、黒人の若い女性で異性愛者)は人口統計学的にみれば重なります。
ですが、彼らが同じ大学に通い、同じ教授のもとで学び、同じような経験モデルを使っていたら、認知的多様性はありません。
また、白人の中年でメガネをかけていて、子供の数も好きなテレビ番組も同じ2人のエコノミストの場合、人口統計学的に見たら、画一的です。
ですが、一方がマネタリストで、もう一方がケインズ派だったら、問題への向き合い方に関しては認知的多様性があります。
ちなみに、エコノミストの事例をもう少し見てましょう。
6人の認知的多様性がない一番正解率が高かったエコノミストのチームと、1位の人間ばかりでなく上位6人を集めた多様性のあるエコノミストチームで競わせた場合、後者の方が15%も正解率が高かったのです。
つまり、同じ考え方のトップ集団より、「考え方の違う集団の方が集合知を発揮する」と言えます。
また、アイデア発想についても見てみましょう。
10人のチームを結成して効果的な肥満率の上昇を抑える画期的な方法を考えるとします。
その結果、有益なアイデアが1人10個出たら、グループ全体では有益なアイデアは合計いくつになるでしょうか?
実はメンバーの数からアイデアの質まで単純に推測はできません。
人口統計学的多様性も認知的多様性もない集団なら、同じアイデアばかり重なり、合計して10個ということはありえます。
しかし、多様性に富む10人のグループなら、それぞれ違った発想をするので、有益なアイデアが100個になる可能性は十分あります。
グループの平均をとるとどうなるでしょうか?
経済予測だと、それが正解率の高さに貢献しますが、予測ではなく、問題解決だと悪影響をもたらします。
複数のアイデアの中間をとる、つまり皆の意見を取り入れすぎて、中途半端なおかしなアイデアになるからです。
つまり、問題解決のためには一部のアイデアを切り捨てなければなりません。
しかし、発想そのものが数多く出るのはいいことで、それには多様性確保が重要な役割を果たします。
画一的な集団が抱える一番の問題点は、自分たちが気づいていない、しかも聞かなければならない意見を逃しているということです。
また、多様性のあるグループと、画一的なグループではメンバーがまったく異なる経験をしていました。
前者は話し合いは認知的な面で大変だったと述べ、後者は気持ちよく話し合えたといいます。
正解率については当然、前者の方が高いですが、正解を知るまで自信はなかったそうです。
後者は、正解率が低かったですが、自分たちの答えに自信を持っていました。
つまり、画一的なグループは異なる意見を取り入れられないまま、自分たちが正しいと信じていました。
だからこそ、多様性は大事なのです。
また、理工学分野の全論文の「90%がチームによるもの」というデータもあります。
医学分野だと、共同執筆と個人執筆は3対1の割合です。
特許の分野や、株式ファンドでも、現在はチームによる運用が圧倒的に多いです。
「多様性か、有能な人材集中か?」では、どうやら多様性、集合知に軍配が上がりそうです。
ちなみに、以下の記事によると、Netflixはプロスポーツチームのような集団編成にしたようです。
そこに多様性はあったのでしょうかね。。。
2 多様性を妨害するもの
では、多様性を妨害するものとして何があるでしょうか?
それは支配的なリーダーの存在です。
和を乱すのも普通の人間は怖がりますし、リーダーに反論するのも難しいのです。
ですが、集団にはリーダーが必要です。
なぜなら、集団がまとまらず、意思決定もなされないからです。
そして、支配型ヒエラルキーと尊敬型ヒエラルキーの2つがあります。
(詳しくは本で)
尊敬型リーダーは皆から尊敬を集めることで、周りが積極的にリーダーに協力する構造を作り上げます。
また、よく言われるように心理的安全性を確保するのが重要です。
ただし、人は不景気や不確かな状況に置かれると、支配型のリーダーを求めるのです。
「救ってもらいたい」救世主願望が出て、熟慮した多様性に人気がなくなります。
(2023年11月時点で、アメリカではトランプ元大統領が人気を集めているようで、アメリカの混沌が見えてきます)
ところで、大規模な大学と、小規模な大学の場合、大規模な人数がいる大学の方が多様性の確保がしやすくなると思いますか?
しかし、結果は大規模な大学ほど、自分と似た者とばかりつるみ、多様性が広がらないのです。
逆に、小規模な大学の場合、学生も少なく多様性も少ないですが、その分、自分と同じような人を見つけにくく、なるべく違いの少ない人で妥協します。
(つまり、こちらのほうが多様性が確保される)
ネットでも実社会と同じことが起きます。
世界が広がるほど、視野が狭くなり、似た者ばかりをフォローします。
エコー・チェンバー現象と呼ばれます。
同じ意見の者同士でコミュニケーションを繰り返し、特定の信念が強化される現象をいいます。
ネット上では自分と違う意見も目に入りますが、それはスルーしてしまいます。
逆に異なる意見を敵とみなし、自説や同じグループを強化してしまいます。
こうして、多様性を妨害するのです。
3 1人の天才より、集合知が勝つのか?
ある調査によると、フォーチュン500社の43%が移民もしくは移民の子孫によって創業あるいは共同創業されたといいます。
(しかも、上位35社だけで見るとその割合は57%にまで上がります)
他の調査では、アメリカ移民が起業家になる確率は、国内で生まれた人と比べて2倍も高いそうです。
(アメリカ移民は同国の人口の13%ですが、同国の起業家の27.5%にものぼります)
その他の調査でも移民の起業での強さは裏付けられています。
移民がどうしてビジネスに強いのか?は詳しくは本をお読みください。
一つだけ言うと、移民はものの見方や枠組みを超えられるということです。
「種の起源」のダーウィンは動物学、心理学、植物学、地質学の分野を横断したことが知られています。
つまり、起業に有利なイノベーションや画期的な発明は、異分野融合でなされます。
積極的開放性(AOM)という用語もあります。
AOM値が高い人は、発想力、議論の是非を判断する力、先入観にとらわれない力、フェイクニュースを見抜く力がどれも高かったそうです。
また、アイデアは物理的なものと違って、収穫逓減の法則の影響を受けません。
例えば、誰かに車を貸したら、あなたはその間その車を使えません。
しかし、新たなアイデアを人と共有すると、可能性はどんどん広がっていきます。
こう考えると、移民の要素を持つとともに、分野横断的な学問を学び、積極的開放性も高い天才なら、集合知に勝てそうな気もします。
しかし、以下の事例も読んでみてください。
平均値に当てはまるパイロットがいない事例があります。
つまり、私達の社会ではあらゆることが標準化されています。
教育プログラム、勤務形態、政策、治療方法など。
人間の多様性、個々を見ず、全員を平均値として扱っています。
GI値は血糖値の上がりやすさを食品ごとに表す数値ですが、GI値はあくまで平均値なのです。
つまり、同じモノを食べても、異なる反応をする人がいて、それを発見したエラン・シーガルは「DayTwo(デイツー)」というハイテクベンチャー企業を立ち上げました。
糖尿病患者に食事指導を行うサービスです。
自分に合った食生活にしたら、体重は17キロ落ち、血糖値は20%下がったそうです。
(標準的な健康的な食生活をしていてもまったく減らなかったのにです)
血糖値だけでなく、睡眠の時間や質、ストレス、服用中の薬なども個人ごとにカスタマイズしたサービスを提供するそうです。
オフィスも、個人ごとに快適さが変わります。
学校教育は標準化の典型例です。
同じ教科書(指導要項や範囲)で学び、同じテスト(共通テストなど)で成績を決められます。
しかし、教育の個別化(差異化)はコスト面や人材面などで難しさもあります。
つまり、多様性の力を軽視してはダメだということです。
組織や社会の今後の繁栄は、個人個人の違いを活かせるかどうかにかかっています。
また、個人主義的なアプローチは根強いです。
社会は、個人が知識や洞察力を高め、個人が認知バイアスを逃れる方法ばかり提供してきました。
しかし、全体論的な視点、つまり、集団脳、集合知、心理的安全性、融合のイノベーション、ネットワーク理論などは、皆、全体から生まれています。
現代社会はあまりにも複雑な問題が多く、個人の力、もちろん、天才1人だけでは解決できそうにありません。
人類が唯一、優れている能力は社交性だとも言われています。
つまり、孤高になるよりも、集団で結束するのが人類の強みなのです。
「1人の天才より、集合知が勝つ」という結論に落ち着きそうです。
今回の記事は以下の本をかなり参考にさせてもらいました。
「多様性の科学 画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織」
多様性について深く知りたい方には相当にお勧めな濃い内容の本です。
ではこの辺で。(6268文字)
このブログは個人的見解が多いですが、本・記事・YouTube動画などを元にしつつ、僕の感性も加えて、なるべく役立つ・正しいと思われる記事を書いています。
あくまで読者がさらに深く考えるきっかけとなればいいなぁという思いですので、その辺は了解ください。
参考・引用文献。